日本語用論学会

大会シンポジウム情報

日本語用論学会第22回大会シンポジウム (22nd Annual Conference Symposium)

 

 『音声・言語・こころ:ヒトのコミュニケーションの進化的起源をいかに捉えるか』

 

 (大会二日目午後)

 

  司会者: 松井智子(東京学芸大学)

 登壇者: 岡ノ谷一夫(東京大学)

     香田啓貴(京都大学)

     橋彌和秀(九州大学)

  

2019年11月23日(土)・24日(日)に京都外国語大学にて開催される日本語用論学会第22回大会のシンポジウム(2日目)についてのご案内です。大会テーマである『言語の共有・進化・適応をめぐる語用論』にあわせ、『音声・言語・こころ:ヒトのコミュニケーションの進化的起源をいかに捉えるか』をテーマとしたシンポジウムを行います。登壇者には文部科学省新学術領域「共創的コミュニケーションのための言語進化学のメンバーである岡ノ谷一夫氏(東京大学)、香田啓貴氏(京都大学)、橋彌和秀氏(九州大学)を、また司会に松井智子氏(東京学芸大学)をお迎えいたします。言語の起源を進化生物学的な視点から論じ、コミュニケーションにおける語用論的側面の意味を新たな視点から見直す貴重な機会です。ぜひお誘い合わせてご参加ください。詳細については追ってお知らせします。

シンポジウム主旨

言語・コミュニケーションとそれらを可能にするヒトのこころの進化的起源についての研究動向を俯瞰し議論します。講師・司会として、文部科学省新学術領域「共創的コミュニケーションのための言語進化学」メンバーが登壇します。本領域は「階層性」と「意図共有」を2つの柱として、これらの融合としての⾔語進化(共創言語進化)のメカニズムを解明し、コミュニケーションの未来と人類の存続のあり⽅を提言することを目指すものです(http://evolinguistics.net/)。シンポジウムでは近年の言語進化研究の全貌をご紹介いただくとともに、語用論とも関わりの深い、音声および意図共有の果たす役割に着目して議論いただきます。言語の起源を進化生物学的な視点から論じ、コミュニケーションにおける語用論的側面の意味を新たな視点から見直す貴重な機会です。ぜひお誘い合わせてご参加ください。

 

講師紹介

岡ノ谷一夫(東京大学)

小鳥の歌の進化と機構から、人間言語の起源についてのヒントを得る研究で知られている。また、近年では動物とヒトの比較研究から、言語と感情の起源を探っている。

香田啓貴(京都大学)

言語の起源やその進化史について、動物との比較を通じて研究を行っている。そのうえで、ヒトをふくむ霊長類のコミュニケーションがどのように進化してきたのかを研究している。

橋彌和秀(九州大学)

コミュニケーションの発達とその進化を研究している。また並行して成人の「非言語」的なコミュニケーション行動の実験的分析、チンパンジーなどヒト以外の霊長類を対象とした実験研究もおこなっている。

司会: 松井智子(東京学芸大学) 

 

 

発表タイトル及び要旨

「コミュニケーション信号の多様性とその進化要因」  岡ノ谷一夫(東京大学)

人間言語の特徴として、音節の多様性と組み合わせの多様性がある。全く同じことがある種の鳥の求愛の歌にも見られる。ジュウシマツのオスがうたう歌には多様な要素があり、それらが多様な組み合わせを持って歌われる。ジュウシマツの祖先であるコシジロキンパラの歌には、このような多様性は多くない。鳥類の歌の多様性の進化要因として、メスによる多様性への好みと、家禽化による多様性のコスト低減とが考えられる。同様な過程が、ヒト言語の成立にも寄与しているかも知れない。(本研究は、新学術共創言語進化による支援を受けた。)

「サルの発声からヒトの発声に至る道筋」  香田啓貴(京都大学)

霊長類の生物学としての研究の特色は,ヒトのさまざまな行動について進化的な考察と視点を与える可能性なのかもしれない。なぜならば,行動が発現するに至る認知過程やその神経基盤,身体設計など,生物学的要素に高い相同性が存在するという前提にたてるためである。化石には残らない言語をはじめとするヒトに固有とされる行動の進化の過程を紐解く可能性が,種間比較という手段には存在する。しかし,種間比較を通じた言語進化の考察にあたっては,さまざまな相違点に直面する。その代表は,言語創発を支える下位機能としての発話能力の問題であろう。とりわけ,発声運動操作に関与する神経基盤および音韻産出を支える形態基盤の双方において系統発生と個体発生の観点でサルとヒトで決定的な乖離が観察されてきた。それでは,ヒトの系統で突如として発話が出現したと考えてよいのだろうか?発声能力自体をさらなる下位機能の統合の結果生じた運動能力であるという仮説を仮定したうえで,霊長類進化のいかなる過程で能力統合が生じ発声能力獲得へ至ったのかについての見解や最新の話題提供をしたい。

「「こころの階層性」は誰にとって必要なのか」  橋彌和秀(九州大学)

1970年代以降の自然科学の進展は「こころ」やコミュニケーションというそれまでは漠然としていた概念さえも検証可能なかたちで取り扱うことを可能にした。外部情報を整合的に処理する内的なメカニズムとしてのこころは、ヒトだけに備わるものではないが、現代の知見と方法論は「ヒト的なこころとはどのようなものか」という根源的な問いを明示化し挑むことが可能な地点に達している。本発表では、”Theory of Mind”概念を手掛かりとしつつ、他者の知識・注意状態の「理解」を反映した教示・関心行動の初期発達や、重層化された他者理解の基盤となる比較的「ゆるやかな」発達についての我々自身の研究をご紹介したい。

 

TOP